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2022年6月25日 (土)

『何が記者を殺すのか 大阪発ドキュメンタリーの現場から』(斉加尚代著)

毎木曜掲載・第259回(2022/6/23)

真っ直ぐに問い続けること

『何が記者を殺すのか 大阪発ドキュメンタリーの現場から』(斉加尚代著、集英社新書、1034円) 評者:志水博子

 

 映画『教育と愛国』が、5月13日の公開から1か月あまりで観客2万人を突破したという。ドキュメンタリー映画としては異例のスピードで全国に広がっている。すでに観られた方もおられるだろうが、実は、本書の著者はその監督でもある。

 本書を差し置いて、映画の話も何だが、前回の「本の発見」で、加藤直樹さんの書評「ナショナリズムについて」(ジョージ・オーウェル著)を読み、得心したことがあった。そのことについて一言触れさせてほしい。

 「普通、ナショナリズムという単語は愛国主義、民族主義、国家主義などの意味で使われるが、オーウェルはこれを、「党派感情」とか「陣営主義」といった全く別の意味で使っているので要注意だ。つまり、世界を敵と味方の二つに分けて、そこから物事の是非を評価する考え方を指しているのである。」(前回書評より引用)

 なるほど、映画『教育と愛国』には著名な歴史学者をはじめ、数々の「愛国者」たちが登場し、およそ理解できない言説を堂々と披瀝する。こちらは唖然とさせられるのだが、オーウェルがいうところの「党派感情」「陣営主義」からくる思考の歪みだと理解すれば合点がいく。いま、こういったナショナリズムによって教育がどうなっているのか、ぜひとも映画を観てほしい。

 さて、本書に戻るが、著者(写真)は、MBSテレビドキュメンタリー『映像』シリーズで、数々の問題作を世に問うてきた。大阪には熱烈なファンも多い。が、何しろ関西ローカルである上、深夜の放映である。これまでも数々の賞を受賞され注目されてきたが、その作品に触れたくても触れることができなかった人にとって、本書は願ってもない一冊であろう。また、すでにテレビドキュメンタリーを観た人にとっては、著者の生身の姿、息遣いがそのまま伝わってくる点で興味深いだろう。

 「第一章:メディア三部作」では、『なぜペンをとるのか〜沖縄の新聞記者たち』『沖縄 さまよう木霊〜基地反対運動の素顔』『教育と愛国〜教科書でいま何が起きているのか』について、それぞれの企画に込めた「問い」から、インタビューを通して伝わってくる著者の胸の高鳴り、そして、デマやフェイクを追う中で「予想だにしなかった着地点」への到着、それらを綴る著者に伴走する思いで読むことができる。

 「第二章:記者が殺される」は、『バッシング〜その発信源の背後に何が』が取り上げられている。本書の白眉といえよう。ネット社会の闇ともいえるバッシングを取材するために自身をも「ネタ」として提供する著者の覚悟は、教育が政治主導になっていく危険性を察知した出来事が出発点になっているという。著者はドキュメンタリーを次のように説明する、「用意した『演出』や『筋書き』にこだわるのではなく、あくまで『事実』と『偶然』に向き合ってみる。作り手の側が全体像に歩み寄ってゆく」と。つまり、真っ直ぐ問い続けるところに作品が生まれるわけだが、これは著者がドキュメンタリーを作る上での一貫した姿勢でもある。

 世の中はどこもかしこも忖度文化がはびこっているが、著者には、保身はもちろんのこと忖度が一切ない。そして、それが思いも寄らなかったバッシングの正体を明らかにしていく。著者はあくまで聞く姿勢を貫きながらその一方でわきまえはしない、相手が誰であれ。そこに著者の報道記者としての職業倫理がある。

 「終章:『教育と愛国』の映画化に走り出して」では、冒頭でも触れたように教育における政治の介入を可視化したといえる。実は、それはこの章に限らず、本書全編を通していえることだが、すべてに政治が、政治の圧力が絡んでくることが明かにされている。

 「おわりに-ドキュメンタリスト、組織の中での闘い」は、この時代を生きる著者の怒りと歯がゆさと悔しさのこもった、それでいて希望を諦めない肉声が伝わってくる。

 最後にドキュメンタリーについて、著者の言葉を紹介しておこう。

 「テレビドキュメンタリーをあらためて価値付けるとしたら、それはやはり時の政治権力や大企業におもねらず、身近に生きる人びとのために世に問い、異議申し立てをするものだということ。私が捉えるドキュメンタリーは、空高く自由に羽ばたいて時代を映し出す、そんな輪郭を持つ表現の世界です。」

*映画『教育と愛国』公式サイト
https://www.mbs.jp/kyoiku-aikoku/

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