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2022年1月17日 (月)

ジャーナリズムを放棄した「監視対象との癒着」宣言――『読売新聞』が大阪府(=維新)と「包括連携協定」締結

ジャーナリズムを放棄した「監視対象との癒着」宣言――『読売新聞』が大阪府(=維新)と「包括連携協定」締結

 2021年12月27日、読売新聞大阪本社(柴田岳社長)と大阪府(吉村洋文知事)が「包括連携協定」を結んだ。大阪府のHPによると、包括連携協定は「民間企業との協働・コラボレーションにより、社会課題の解決を図る新たな公民連携のモデル」だそうだ。しかし、報道機関にとって大阪府は重要な取材対象であり、監視の対象。新聞社がその取材・監視対象と協定を結んで「協働・コラボレーション」する?これはどう言い繕おうと、ジャーナリズム・報道機関であることの放棄宣言だ。大阪府は吉村知事が副代表を務める「日本維新の会」の本拠地だ。昨年の衆議院選挙で大きく議席を増やした後、「憲法改正」に向けて動きを強める維新。その牙城・大阪府と読売の「包括連携」は何を意味するのか。

 

 

●報道機関としては初めての包括連携協定

 

 《大阪本社と府/包括連携協定》――12月28日『読売』朝刊第3社会面最下段に、こんな見出しのベタ記事が掲載された。記事の概略はこうだ。 《読売新聞大阪本社は27日、地域の活性化や府民サービスの向上を目的とした包括連携協定を大阪府と結んだ。「教育・人材育成」「安全・安心」など8分野で連携し、活字文化の推進や災害対応での協力を進める》 《具体的な内容は、▽府内の小中学校でのSDGs(持続可能な開発目標)学習に記者経験者を派遣▽「読む・書く・話す」力を伸ばす府主催のセミナーに協力▽児童福祉施設へ『読売KODOMO新聞』を寄贈▽大規模災害時に避難所に新聞を提供――など》

 27日に行われた協定の締結式で、吉村知事は「これまでも読売新聞販売店に地域の見守り活動などをしていただいている。さらに多くの分野で連携していく」と述べた。また、読売(大阪本社)の柴田社長は「地域への貢献は読者に支えられている新聞社にとって大切な取り組みの一つ。連携協定を機に一層貢献したい」と話した、という。

 包括連携協定は、大阪府がさまざまな企業・法人などと結んできた。昨年末までにコンビニや食品、運輸、銀行、生保、大学などと計54件の協定を結んでいるが、報道機関では読売が初めてだ。協定書には、「この協定の締結により、読売新聞は報道機関としての大阪府への取材、報道に付随する活動に一切の制限が生じないこと、また大阪府による読売新聞社への優先的な取扱いがないことを相互に確認する」と記載されている。

 

●「読売新聞はそうそうやわな会社ではない」?

 

 全国一の部数を誇る大手新聞社が、重要な取材対象であり、監視対象である行政機関と包括的な連携協定を結ぶ。そのことに問題はないのか。協定の締結式後開かれた記者会見では、その問題に質問が集中した。

 「Yahoo!ニュース」などに掲載されたジャーナリスト立岩陽一郎氏(元NHK記者)のレポートから主なやりとりを紹介しよう。

――取材する側とされる側の連携ということで、権力監視の役割を果たせるのか。報道機関としての中立性はどのように保てると考えるか。
 柴田社長「取材報道とは一切関係のない協定となっている。大阪府は読売新聞に対して取材、報道、情報に関しては別扱いは一切しない。読売新聞は協定により取材報道の制限は一切受けない。これまで通り、事実に基づいた公正な報道と責任ある論評を通じて、行政を監視していく。報道で何か協力するということではない」

――協定に至った経緯、知事と報道機関との距離について。
 吉村知事「今年度当初から協議を重ねてきた。取材と報道に関しては一切関係ない。取材というのは表現の自由、憲法21条に関するもの。国民・府民の知る権利があって取材の権利・自由がある。行政は監視される立場にあり、それが変わることは微塵もない」

――協定の「地域活性化」の項目に「2025年万博開催への協力」が入っている。万博開催を検証する役割の報道機関が「協力」となると、自制が働く懸念がある。
 柴田社長「読売新聞はそうそうやわな会社ではない。読売新聞の記者行動規範に沿って公正にやる。万博に関しても問題点はきちんと指摘し、ここは伸ばしていけばよいと言う点は提案する。そういう形の是々非々の報道姿勢を主体的に貫いていくつもり」

――記者が萎縮しないと言えるのか。
 柴田社長「萎縮しないのかと言われれば、萎縮しないでしょうとしか言いようがない。そんな簡単に忖度していうことばかり聞く記者ばかりじゃありませんから、きっちりと厳しい目で事実に基づいて報道していくことになる」

 

●報道機関のチェック役割を放棄する「大阪万博への協力」

 

 協定書別紙の「今後の主な取り組み」を読んで、気になることがいくつもあった。

 一つは、府の職員向けセミナーなどに記者経験者を講師として派遣し、情報収集力などの向上を支援する、としていること。だが、「憲法改正」を社論にする読売社員を公式に講師として招くことに、憲法を順守すべき行政機関として問題はないのか。教材に「改憲」絡みの読売記事を使われた場合、セミナーの公正は保てるのか。それでなくても「改憲推進知事」の下、そうしたセミナー参加は職員への精神的圧力になるのではないか。

 二つ目は情報発信への協力。読売が折り込みで無償配布している生活情報誌などで府政情報発信に協力する、という。これは読売以外のメディアにとっては不公平な情報提供であり、結果的に府が読売の販売促進に協力させられることを意味するのではないか。

 三つ目は、2025年万博開催への協力。大阪万博については賛否両論があり、財政難の中で膨らみ続ける会場建設費、遅れる海外パビリオン誘致など、次々と問題点が出てきている。その万博に、「開催に向けた協力」を明記した協定のもとで、記者たちは本当に問題点を検証し、指摘できるのか。また記者がそうした記事を書いたとしても、デスクや上層部はそれを掲載するか。柴田社長は「やわな会社ではない」と言ったが、読売がオフィシャルパートナーとなった東京五輪で、数々の疑惑や不祥事を徹底的に無視し、礼賛報道に終始した「実績」を思い起こせば、「是々非々の報道姿勢」など絵空事でしかない。

 

●ジャーナリスト有志の抗議声明に5万人を超す賛同署名

 

 協定締結には、全国のジャーナリスト有志が直ちに抗議声明を出し、賛同署名を募った。

 《報道機関が公権力と領域・分野を横断して「包括的」な協力関係を結ぶのは極めて異例な事態であるだけでなく、取材される側の権力と取材する側の報道機関の「一体化」は知る権利を歪め、民主主義を危うくする行為に他なりません。私たちジャーナリスト有志は今回の包括連携協定の締結に抗議し、速やかに協定を解消することを求めます》

 声明には、ジャーナリストなどを中心にすでに5万2000人を超す賛同署名が集まっている。問題は一新聞社と一自治体の関係にとどまらない。長く続いた安倍晋三政権下で権力による報道干渉・言論統制、メディア側の自主規制が強まり、メディアの権力監視機能が著しく低下した。そんな中、全国一の部数を誇る読売が、「維新」副代表がトップを務める大阪府と協定まで結んで協力関係を強めることの影響は計り知れない。

 他の新聞社やテレビ局も、府との「協力関係」を求めてこうした連携協定を結ぼうとするかもしれない。そうなれば、今でも垂れ流しになっている吉村知事の記者会見報道など、それこそ「本日の大本営発表」と化すだろう。その一方で、メディアに対する市民の信頼は失われ、新聞は報道機関ではなく、ただの情報産業としか見られなくなってしまう。

 読売も加盟する日本新聞協会の「新聞倫理綱領」には、「公正な言論のために独立を確保する。あらゆる勢力からの干渉を排するとともに、利用されないよう自戒しなければならない」と明記されている。今回の協定締結は、公正な言論のためにある「独立」を放棄して自ら「干渉」を招き、「利用」しやすくする「ジャーナリズム放棄宣言」に等しい。

 

●失われた「反戦・反差別・反権力」の伝統

 

 「大阪読売」は、かつて反戦・反差別・反権力の報道で一時代を築いた歴史を持つ。70~80年代、黒田清社会部長の時代には、大阪府警汚職、警察官ネコババ事件、誘拐報道、武器輸出などで次々とスクープを放った。取材記者の動きも記事の大きな要素として書く報道は新しい新聞記事スタイルとして新聞を読者の身近なものにし、大きな共感を得た。

 その手法を全面的に生かしたのが、75年に始まり約10年間連載、単行本全20巻に及んだ『新聞記者が語り継ぐ戦争』シリーズだ。73年に読売新聞社(東京)に入り、記者活動を始めた私にとって、第1巻『終戦前後』(76年)から第20巻『戦犯』(85年)まで愛読した20冊の本は、取材活動の生きた教科書のような存在であり、今も大切にしている。

 《この「戦争」シリーズは戦記でも戦史でもない。われわれ現代の新聞記者が、自分たちの周辺にある戦争とのかかわりを書き続けることによって、戦争という得体の知れない者の実態に近づきたい、そして同時に、戦争というものが被害者にとってはもちろん、加害者にとってもいかに悲惨なものであるか、その影がいかに長く後に残るものであるかを知ってほしいとの気持ちで続けてきたものである》(第20巻・黒田部長のあとがき) 大阪読売は、メディアがタブーにしてきた部落差別の問題も正面から取り上げた。読者の手紙をもとに記者が現場に足を運ぶ。紙面つくりの最大の特徴は「記者と読者がともに」だった。しかし、「黒田軍団」と呼ばれた大阪社会部はその後、渡邊恒雄氏ら「東京読売」の人事介入によって解体され、黒田部長も87年に会社を追われて黒田軍団は壊滅した。

 読売はその後、全社的に右傾化を強め、94年には「憲法改正試案」を出して、9条を標的にした日本の壊憲の流れを加速させる。それ以降、読売社内では憲法はもとより、紙面作りについて自由に議論する雰囲気も急速に失われた。そうして渡邊氏ら上層部の意向を忖度する「やわな記者」たちが次々と幹部に取り立てられるようになっていった。

 私は2002年に読売を中途退社したが、維新との野合と言うべき今回の協定を知って、「とうとうここまで来たか」と思った。安倍政権下で政府広報紙化を強めた読売は、今度は「自民党より右」の右翼政党と手を結び、「壊憲連合」の機関誌化へと動き出した。読者から遠く離れて権力にすり寄る読売は、いったいどこに向かっているのだろうか。(了)

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