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2021年8月 7日 (土)

国民を絶望さす入院制限、決めた首相は「裸の王様」

 
 
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7月30日、緊急事態宣言に4府県の追加を発表する菅義偉首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)© JBpress 提供 7月30日、緊急事態宣言に4府県の追加を発表する菅義偉首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(舛添 要一:国際政治学者)

 8月2日、政府は従来の新型コロナウイルス対応を変え、「中等症以下の患者は自宅療養させる」という方針に変えた。この「入院制限」が世論や与党からも猛批判を浴び、5日は、中等症であっても「酸素投与が必要な患者は入院可」「最終的には医師の判断」などと修正を余儀なくされた。

 だが、入院患者を選別することで病床をなんとか確保しようという意図は明らかだ。そして、これからは入院したくでも入院できず、自宅でなくなる患者も増えてくるだろう。その決断の背景にあるものは何なのか。

菅政権、感染拡大に打つ手なし

「入院制限」に踏み切った政府の方針転換の背景は、コロナ患者の急増で病床が不足するという危機感である。全国の感染者は、4日には1万4207人にのぼった。東京都が4166人、埼玉県が1200人、神奈川県が1484人、千葉県が840人など関東地方は急増している。また、北海道は366人、大阪府は1224人、福岡県は752人、沖縄県602人など他地域も同様な状況である。

 5日には、東京都の感染者は5042人と、遂に5000人を超え過去最多である。全国のコロナ感染者も1万5000人を超えた。首都圏の神奈川県1846人、埼玉県1235人、千葉県942人、いずれも過去最多となった。福岡は718人で、県知事は政府に緊急事態宣言発令を要請した。大阪府は1085人、兵庫県は459人、愛知県は364人、沖縄県は648人、北海道県は342人など増加が止まらない。打つ手がない状態である。

デルタ株の厄介さ、分かっていたはずではなかったか

 インドで流行ったデルタ型の変異株が日本でも主流となりつつあり、従来型に比べて遙かに強い感染力を持っている。若い世代へのワクチン接種が滞っており、これが感染の爆発増加となっているのであるが、医療崩壊に繋がるという危機感が政府に募っている。

 しかし、デルタ株の感染拡大、そのウイルス特性は、かねてから海外で明らかになっていた。日本政府は、その情報をまったく活用できていなかったという他はない。まさか「日本では流行しない」とでも思っていたのであろうか。今や世界のコロナ感染者は2億人を超えたが、新規感染者の9割がデルタ株だという。

 海外データの入手が遅く、対応が後手後手に回っているというのが、今回の日本政府のコロナ対応だ。それはワクチンの手配が遅れたことに典型的に現れている。

 アメリカCDCは、内部報告書で、デルタ株の感染力は水痘(水疱瘡)並みで、「コロナとの戦争の様相が変わった」とか、「game changer」だとかいう表現で危機感を募らせていた。その危機感を共有できていれば、急に医療体制の逼迫などと大騒ぎするまでもなかったのではないか。

 因みに、従来の新型コロナウイルスは感染者1人が平均して2.5人に感染させるが、天然痘は4〜6人、水痘は6〜8人である。つまり、実効再生産数がそれだけ大きく、凄まじい感染力であることが分かる。

 政府は、緊急事態宣言の対象地域を拡大したり、期間を延長したりしているが、その効果は出ていない。政府は、さらに、福島県、茨城県、栃木県、静岡県、愛知県、滋賀県、熊本県にまん延防止等重点措置を適用することを決めた。期間は8月8日から31日までである。しかし、この措置も緊急事態宣言と同様に効果はあまり期待できない。

 国民は、以上のような政府の決定には馴れきっており、新たな行動変容を起こそうとはしないからである。規制が長引けば、飲食業界をはじめ、経済的打撃はさらに続くことになり、その点での懸念も増す。

ワクチンがないのに「早く接種を」と尻叩く都知事

 ヨーロッパではワクチンパスポートを発行し、それがないとレストランなどに入れない仕組みを作っている。アレルギー体質などで、接種できない人は陰性証明書で代替できる。ニューヨークのデブラシオ市長も、3日、飲食店など屋内施設利用者らにワクチン接種証明書の提示を義務づける方針を発表した。

 日本でも、このような措置を講じれば、飲食店も助かるが、まだ政府は動いていない。

 そもそも、ワクチンパスポート発行の前提は、多くの国民がワクチン接種を終えていることであるが、日本では、この接種が遅れている。菅首相が1日のワクチン接種回数が100万回を超えたと豪語しても、東京のような大都市では若い世代への接種が進んでいない。

 NHKの調査によると、東京23区では64歳以下の世代のワクチン接種は順調ではない。50代では、14区で1回目の接種が5割に達していない。私の住む世田谷区では21.5%である。2回目も終了したのは最高が墨田区の31%で、世田谷区の4.6%など、10の区は1割にも達していない。

 40代では、1回目終了が5割を超えているのは墨田区のみで、世田谷区は12.5%である。30代、20代になると比率はもっと下がる。問題は国からの供給不足である。小池百合子都知事は若者に「早く接種せよ」というが、この事実を知って言っているのであろうか。

ワクチン接種をしたくても予約も取れない人が続出。なのに「早くワクチン接種を」と都民の尻を叩く小池百合子都知事(写真:つのだよしお/アフロ)© JBpress 提供 ワクチン接種をしたくても予約も取れない人が続出。なのに「早くワクチン接種を」と都民の尻を叩く小池百合子都知事(写真:つのだよしお/アフロ)

ワクチン接種スピードをはるかに上回るデルタ株の拡大

 ファイザーは3回目の接種が有効だとして、米当局に追加承認を申請するが、イスラエルは、8月1日から60歳以上の市民を対象に3回目の接種を開始している。イスラエルが、最初のワクチン接種を始めたのは昨年の12月8日である。

 ドイツも、9月から3回目のワクチン接種を始める。イギリスもフランスも、同様な措置を講じる方向である。アメリカは検討中である。

 このように、ワクチン先進国は3回目の接種を行う。そうなると、需給バランスから、値上げ、入手の困難が予想される。すでにファイザーとモデルナはEU向けのワクチンの値上げを決めている。これまでのような後手後手の政府対応では禍根を残すことになる。「ワクチン敗戦国」の汚名は返上できそうにない。

 そもそも、「中等症以下は自宅療養」という方針転換は、ワクチン接種が進み、重症化する患者が激減するという前提に立っていた。「1日100万回」という菅首相の号令の効果を過信してしまったことが判断ミスである。

 3日の政府の発表によると、少なくとも1回の接種を終えた人は、総人口の40.2%である。2回目完了者は29.8%である。高齢者については、1回目は86.6%、2回目終了は77.1%である。政府は、「人口の4割が接種すると感染者数が減り始める」としているが、デルタ株の感染拡大はその前提を覆している。

 イギリスでは、感染対策規制が撤廃されたにもかかわらず、感染者が減少している。これをワクチン接種で集団免疫を獲得したからだとする意見もあるが、サッカー欧州選手権が終わり群衆の密状態が解消されたり、夏休みで学生らの検査数が減ったりしたからだという意見もある。今のところ、どちらの説が正しいかは判断できない。

 イギリスほどワクチン接種が進んでいない日本で、中等症以下のコロナ患者を自宅療養とするという方針転換には、科学的データに基づく説明がない。患者の急増で病床が足りないという理由だけなら、火災が増えて消防車が足りないので、小家屋は燃えるに任せると言うに等しい。5日になされた若干の軌道修正は当然のことだった。

実質的な「命の選別」

 自宅療養という政府方針は国民に不安を呼んでいる。なぜ菅首相は国民の気持ちを理解できないのだろうか。自宅で死亡する患者を増やす選択は医師も拒否している。若い世代はワクチンも届かず、入院もできない。

 今回の政府が示した「入院制限」の方針は、コロナ患者のみを不利に扱う「命の選別」になる。他の病気なら入院できて、コロナだと入院できない。これは国民皆保険制度の根幹を揺るがす暴挙である。また感染症法の規定に違反する。肺炎は重症化すれば、死に直結する。手足の骨折などとは違うのである。医師ならば常識であることを、医師免許を持っている医系技官は理解していないのだろうか。

 自宅療養者も症状が悪化したときには、直ぐにICUなどの施設のある病院に搬送するというが、そのための仕組み、人員などが整っていないではないか。現場の医師から見れば、まさに机上の空論である。医師や看護師など、細かく訪問診療できる体制一つ完備していないのである。

 患者を拒否するのではなく、感染発生当時の中国のように、プレハブの巨大診療所を作ることくらい選択肢に入れてもよいのではないか。五輪開催に3兆円もの大金を注ぎ込める大国が日本である。五輪とのあまりのアンバランスに愕然とする。

かつての「役人に遠慮なく斬り込む政治家」の面影なし

 かつての菅義偉は、役人のあげる数字など鵜呑みにせず、矛盾に切り込み、改革を実行した政治家だった。感染症は得意な分野ではないにしろ、官僚の様々な間違いを糺していない。御用学者、御用評論家に囲まれた悲劇だ。自民党議員も苦境の首相を助けていない。

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