© JBpress 提供 新型コロナウイルス感染症による肺炎で亡くなったとみられる羽田雄一郎氏(2012年、写真:AP/アフロ)
12月27日 「参議院議員で立憲民主党参院幹事長である羽田雄一郎氏が急逝」との報道がもたらされました。
享年53歳。
羽田孜元首相の長男で、現在の野党勢力では数少ない「サラブレッド」として、将来の首相候補にも擬せられていた若手議員逝去の衝撃は、単に「コロナで初の代議士死亡」というだけでなく、政局全体にも中長期的な影響を及ぼす可能性があるかもしれません。
そうした観点、また、参院診療所の判断が正しかったか、といった議論については多数の報道がありますので、重複しない、かつ一般読者にすぐに役立つ情報をお届けします。
ポイントは、12月27日の午後に秘書の運転する一般車両の後部座席で「俺、肺炎かな?」という言葉を最後に意識を失い、短時間で急逝したという事実です。ここから理系・医系の教訓を導きましょう。
肺炎を疑われる急患は、どんなに短距離でも、救急車で搬送すること
何かあったとき、それこそ手遅れ、命とりになりかねません。羽田雄一郎氏のケースは、その「何か」があり、手遅れが命とりとなった可能性が極めて高いと思います。
羽田議員の12月
報道から察するに、羽田議員は12月上旬、新型コロナウイルスと無縁であった可能性が高いと思います。
ただし、既往症として糖尿や高血圧、循環器障害などがあった可能性が報道されているのも目にしました。
ここから一般の私たちが参考にできるのは、持病がある人は間違ってもリスクに近づかない方がよいという、春先に芸能人の逝去が続いたときと、全く同じ教えになるでしょう。
違うのは、春の芸能人が軒並み還暦を過ぎているのに対して、今回の羽田議員はまだ53歳、働き盛りの若手であった事実です。
2020年12月の 羽田議員の足取りを報道から確認してみると
12月20日 公務なし
21日 公務なし
22日 面談3件 (濃厚接触者)
党常任幹事会 (座席両隣が濃厚接触者)
23日 地元長野移動 県常任幹事会 (参加者と県連代表が濃厚接触者)
帰京して財務省職員と面談 (濃厚接触者)
代議士が一人、陽性になると、各地の中枢に濃厚接触のリレーが走ってしまうことが如実に示されています。
12月24日 午前中参院診療所に「知人に感染者が出たのでPCR検査したい」と連絡
参院診療所は「無症状なのでPCR検査はできない。民間で可能な機関リストを送る」と返信
リストにあった医師に連絡→検査できないので別のクリニックで予約を勧められる。羽田議員(の秘書?)は、PCR検査をネットで予約。
同24日 深夜に発熱、38度6分
24日に発症ということから、1週間から10日の潜伏期間を仮定しても、12月上旬の段階ではコロナと無縁であった可能性が高い。
逆に言えば、12月10日前後から、羽田議員と接触のあった参院関係者はもちろん、地方と中央の官庁、与野党、支援者、関係者などあらゆる人が「接触者」だった。
役所の「濃厚」定義と無関係に、ウイルスは感染しうることを念頭に置いておく必要があるでしょう。
12月25日 羽田議員は自宅で静養 朝 体温 36.5度 深夜 38.3度
26日 この日は羽田議員の妻の誕生日とのことで 自宅静養と報道。
朝 体温 37.5度 深夜 38.2度
27日 朝、体温 36.1度。
午後、予約していたクリニックに、秘書と一般車両で移動中「俺肺炎かな」の言葉を最後に、容態が急変。
報道に従ってより詳細に記すなら、運転していた秘書が言葉をかけても返事がなく、確認してみると意識がなくなっていた。
直ちに救急車を呼んで、東京大学医学部付属病院に搬送。
12月27日16時半頃、病院到着時には心肺停止の状態が確認される。
ちなみに12月27日16時半頃、私は東京大学本郷キャンパスの自分の研究室で、学生の学位研究追い込みで缶詰になって実験中でしたが、遮音材が不足したので、新宿の東急ハンズにウレタンマットなどを買いに出たタイミングでした。
私のラボは医学部付属病院の目の前にあり、搬送口の真横に建物があるので、当該救急車は至近を通過したはずです。
報道を読み、目を閉じて点を仰ぎました。羽田議員は私より3歳若い年齢です。
何が起きたと考えられるのか?
なぜ羽田議員は急逝したのか?
ご要望があれば続稿も準備しようと思いますが、はっきりしているのは「一般車両の後部座席で、(たぶん高熱を発し、容態が悪かったのに)意識があり「大丈夫」という気力だけで乗っていた状況で容態が急変していること」。
具体的には意識を失っていることで、これは酸素欠乏、血中の酸素分圧の低下によって脳が意識活動を継続できなくなったためとみられます。
もし、このとき、救急車での搬送であれば、ただちに酸素ボンベなど「バイタル」生命を維持するサポートの救命医療を実施できたはずです。
しかし、一般車両で、秘書が運転席にいるだけでは、何もできません。
端的に言えば「窒息状態」に陥ったと考えればよいわけです。
肺炎のため、呼吸つまり肺胞から酸素を取り込んで、血液の中に送り込み、どす黒い還元型ヘモグロビンの静脈血が、新鮮な赤い動脈血にエネルギー・チャージして、十分な酸素が全身に送り込まれることで、人間は生命活動を維持し、脳は意識を保つことができます。
人間の肺は、極めて受動的にしか機能しません。言ってみれば、肺はただの「網目状シート」で、そこで空気に晒されると、空気中の酸素が取り込まれる。
空気中の酸素は21%程度の「分圧」割合を持ちますが、これが「たった3%」減って18%ほどになると、頭がぼーっとしてきます。
いわゆる高山病などの低酸素症状はこれに当たります。
さらにこれが15%程度になってしまうと、意識を失ってしまいます。
地下の工事現場などで作業員が酸素欠乏状態になる事故が時折報道されますが、酸素分圧が15%を下回る空気が肺に入ってきてしまうと、「受動的な肺」は、むしろ血中の酸素を放出してしまい、重篤な酸素欠乏に陥って生命がリスクに晒されます。
酸素分圧が21%が18%や15%に落ちるというのは、実は7分の6、7分の5に低下することを意味し、酸素濃度が85% とか 70%に低下すると 14%減で脳は意識を失い、3割減れば生命が維持できなくなる。
非常にデリケートでシリアスな状況です。
この先は、物理屋の「フェルミ算」というやつで、荒い見積もりにすぎませんが、仮に、肺炎の症状が急変して通常の8割5分程度に下がったら、患者は意識を保てません。
新型コロナウイルス肺炎の特徴は、全肺的に急性症状が進むことです。12月中旬以降に新型肺炎に罹患した可能性がある羽田議員は、通常車両の車内でこの状況に陥ったものと思われます。
では、どうすればよかったのか?
酸素交換できる肺組織が炎症のため減っているのだから、残された数少ない「健全な肺胞」で全身や脳が必要とするだけの酸素を取り込ませるよう、応急措置を施すのが救急救命の手段になると思われます。
具体的には肺に直接、高分圧で酸素を供給してやる。
つまり酸素マスクの装着、場合によっては気管への挿管措置などを、緊急に行うべきでした。
しかし、秘書の運転する一般車両では、そのような救急救命措置は何一つ採ることができなかった。そのため、手遅れになった可能性が考えられます。
羽田議員は、まず間違いなく全肺同時に進行する新型コロナウイルス肺炎の特徴的な急性症状に見舞われ、呼吸困難=ガス交感困難な状態、ECMOなど取り付ける場合もある状況に漸近、ボンベで肺の酸素分圧を高める救命措置が取られる必要があったものと思われます。
コロナ急患は単距離でも救急車移送で
こうしたリスクは、万人に平等に訪れます。
「新型コロナウイルス肺炎」を疑われる急患は、決して、一般車両で移送してはならない。どんなに短距離でも、救急救命の対処が可能な救急車で移送するべきである」という本当に役立つポイントだけを本稿には簡潔に記し、読者の利便に供します。
なぜ私がこうした救急救命に、医学部教授でもないのに通じているかというと、19年前に肺炎で死にかけた家族の介護で、こうした状況を医師との議論を通じて知悉する機会があったからです。
状況により、背景の科学的なメカニズムを含む出稿も検討しますが、まずは急患のケア、命を救うアクションが、一番必要ですから、それのみを、まず強調してお伝えします。