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2020年2月23日 (日)

話題の『未来への大分岐』 尼崎で7月4日、斎藤幸平講演会(会場は現在未定)

変革への胎動がマルクスを呼ぶ

『未来への大分岐ー資本主義の終わりか、人間の終焉か?』(マルクス・ガブリエル/マイケル・ハート/ポール:メイソン/斎藤幸平=編、集英社新書、2019年8月刊、980円)評者:志真秀弘

 

 社会主義体制が崩壊しマルクスなど過去の人と言わんばかりの論評が横行して久しかった。が、その風潮に変化が生じている。本書は編者・斎藤幸平(1987―)とマイケル・ハート(1960―)、マルクス・ガブリエル(1980―)、ポール・メイソン(1960―)の三人との対話からなる。いずれも若い気鋭の論客である。

●自然の略奪と資本主義

 マイケル・ハートはアントニオ・ネグリとの共著『帝国』で知られるが、かれと斎藤との対話が本書の第一部。現在の資本主義の危機の特徴がまず示される。世界経済は、リーマンショック後の長期停滞から抜け出せていない。先進国はすでに1970年代に資本蓄積の危機、利潤率低下の危機に直面していたが、では、新自由主義に代わるケインズ主義的・社会民主主義的な、つまり改良的プログラムの実行でこの危機は克服できるかの問いにハートは「ノー!」だとして、変革の可能性は運動をおいてないと応える。

 そこでハートは水や電力をめぐる地域のたたかいを紹介し、〈コモン〉(共有のもの)の概念を説いたうえで、斎藤が著書(追記参照)で解明したマルクスと環境問題について質問する。利潤の最大化を目的とする資本主義は地球環境を保つことはできないーそれを晩年のマルクスは明らかにしたと斎藤は応える。危機を民主主義の力で転換するには、経済的視点に立ち止まらず資本による「自然の略奪」(斎藤)を阻止しする思想が必要。この問題提起は本書の白眉である。同趣旨のことをカストロは切迫感を込めて語っていた(イグナシオ・ラモネ『フィデル・カストローみずから語る革命家人生』岩波書店、2011年)。それを『〈いのち〉を食う』でキューバの原発中止問題と合わせて木下昌明が指摘している。(写真下=斎藤幸平氏)

●哲学の復権

 第二部にはNHK『欲望の資本主義』シリーズで知られる哲学者マルクス・ガブリエルが登場する。かれのポストモダンのへの厳しい批判、そしてその淵源は1968年にあったとの論は、同時代に生きた評者にとって興味深い。いくつもの「真実」があるわけではない、「ホロコーストと従軍慰安婦は『自明の真実』」であり、事実が存在するのに事実を見ない「相対主義」は民主主義にとって危険な考え方だ。かれは、こう主張してフーコー、デリダ、さらにニーチェ、ハイデガーなどに見られる「他者を非人間化」する考え方を厳しくしりぞける。「さまざまな倫理的問題について根本的な合意が、全人類のあいだに存在する」つまり、普遍的理念は実在するとのかれの主張はいまとりわけ大切だ。疎外の現実に立ち向かう共同の根拠もそこにある。AI万能論を批判できるのは哲学はじめ人文諸科学以外にないとの主張も重要である。科学技術の進歩への信仰は危険であって、そこでも倫理的課題が問われている。

●マルクスに帰れ

 最後の第三部は『ポストキャピタリズム』で話題をよんだポール・メイソンとの対話だが、これが意外な展開をみせる。メイソンはコンドラチェフ波動などによりながら、「ポストキャピタリズム」の概念を説明する。かれが情報技術の発展を過大評価しているのではないかとの疑問から、斎藤はいくつかの問いを投げかける。これに対しメイソンは情報工学の発展を道徳的・倫理的に制御するのは人間であり、自分の論は「伝統的なマルクス主義の流れに位置づけられる」と応える。

 こうして三編の対話を貫く思考は、斎藤のいうように「マルクスに帰れ」であり、共通するのは、危機を転換できるのは人びとの運動をおいてないとの認識だ。その意味で、本書は、「99パーセントの人びと」への励ましの書ともいえる。

〔追記〕編者・斎藤は著書『大洪水の前にーマルクスと惑星の物質代謝』(堀之内出版)で2018年のドイッチャー賞を受賞。この賞は、マルクス主義の伝統における最良かつ最も革新的な新刊書に与えられる。過去に故エリック・ボブズボーム、デヴィッド・ハーヴェイらが受賞。

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