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2016年6月 2日 (木)

増税延期の安倍総理に必要なのは二枚舌でなく「謝ること」(上)

増税延期の安倍総理に必要なのは二枚舌でなく「謝ること」(上)
                        ダイアモンド・オンライン 田中秀明

増税延期の安倍総理に必要なのは二枚舌でなく「謝ること」(上): Photo:首相官邸HP© diamond Photo:首相官邸HP

 6月1日、安倍総理は来年4月1日に予定していた8%から10%への消費増税の延期を表明した。これまで外部有識者から意見を聞くなど、年初来から増税の是非を検討しつつも明言を避けていたが、ようやく意思を明確にしわたけである。最初に断っておくが、本稿は消費増税を予定通り実施すべきであることを主張するものではない。ここでは、政府としての意思決定に大きな問題があること、そして何よりも総理大臣としての識見と誠実さに疑問があることについて、指摘したい。

「再び消費増税の延期はない」あの記者会見は何だったのか?

 今回の消費増税延期は、2014年11月に続いて2回目となる。同年11月18日の総理記者会見で、安倍総理はこう述べた。

「来年10月の引き上げを18ヵ月延期し、そして18ヵ月後、さらに延期するのではないかといった声があります。再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言いたします。平成29年4月の引き上げについては、景気判断条項を付すことなく確実に実施いたします。3年間、3本の矢をさらに前に進めることにより、必ずやその経済状況をつくり出すことができる。私はそう決意しています」

 そして、次のように述べて衆議院を解散した。

「税制は国民生活に密接にかかわっています。代表なくして課税なし。アメリカ独立戦争の大義です。国民生活に大きな影響を与える税制において、重大な決断をした以上、また、私たちが進めている経済政策は賛否両論あります。そして、抵抗もある。その成長戦略を国民の皆様とともに進めていくためには、どうしても国民の皆様の声を聞かなければならないと判断いたしました。信なくば立たず、国民の信頼と協力なくして政治は成り立ちません」

 このとき、消費増税延期の理由として安倍総理は、2014年4月1日の5%から8%への消費増税が個人消費を停滞させたことを挙げていた。安倍総理は、10%へ消費税率を引き上げれば、再び景気が悪化し、アベノミクスを台無しにすると考えていたが、さすがに2014年11月の記者会見での発言には重みがあり、そう簡単には増税延期を口に出せなかったわけである。

いつの間にかリーマンショックが増税延期の条件にされている謎

 2015年11月10日の衆議院予算員会で、安倍総理は消費増税に関してこう述べている。

「昨年末、このアベノミクスの成功を確かなものとするため、消費税率の10%への引き上げを18ヵ月延長したところでございます。これはまさに、経済を再生し、デフレから脱却をしなければ財政再建はできないという考え方のもとに、これはしばらく、1年半延期をしたところであります。同時に、世界に冠たる社会保障制度を次の世代に引き渡していくという大きな責任があります。そしてまた、市場や国際社会からの信認を確保するために、29年4月には確実に上げていくということをお約束しています。もちろん、これはリーマンショック級の大きな経済的な出来事があれば別でありますが、そのことも含めて信を問い、我々は勝利を得ることができました」

 なお、2014年の衆議院選挙における自民党の選挙綱領には、「経済再生と財政健全化を両立するため、消費税率10%への引き上げは2017年4月に行います」と書かれており、リーマンショックについての記述はなく、何ら条件は付されていない。総理の発言は当初と変わったわけだが、消費増税を延期するためには、リーマンショック級の危機が必要になったのだ。

 安倍総理は、前回の3%の消費増税が個人消費を押し下げたと指摘していた。しかし、事実を確認する意味で付言しておくが、経済データをつぶさに見る限り、前回の消費増税が景気を低迷させたわけではない。当然ながら、消費税を増税した2014年4-6の消費は落ち込んだが、9-12月期以降は消費はプラスに転じている。7-9月期のマイナスは在庫投資である(4-6月期に積み上がった過剰在庫を減らしたから)。

 また、2015年4-6月期や10-12月期の消費のマイナスは、軽自動車税の引き上げ、冷夏、暖冬など、消費増税とは別の要因で生じたものである。2014年4月の消費増税の実施によるマイナスの影響はせいぜい半年間であり、その後景気は回復し、増税前の需要の先食いによる成長も考えれば、消費増税の影響は限定的だった。

 GDPがそこそこ伸びているにもかかわらず家計消費が伸び悩んでいるのは、労働所得が伸びないからであり、それは消費増税前から起こっていた。安倍総理は、最近の経済の低迷を消費増税のせいにしたいのだろうが、真実を直視し、アベノミクスが日本経済の構造的な問題から目をそらして的外れだったことを、素直に認めるべきだろう。

安倍総理の最後の拠り所は我田引水の伊勢志摩サミット

 その後安倍政権は、消費増税の是非について内外の有識者からの意見を聴取していたが、増税延期の理由を模索していた安倍総理が最後の拠り所としていたのが、今般の伊勢志摩サミットである。サミットの結論である『G7伊勢志摩首脳宣言(骨子)』(2016年5月27日)では、「世界経済の回復は継続しているが、成長は引き続き緩やかでばらつきがある。また、前回の会合以降、世界経済の見通しに対する下方リスクが高まってきている。我々は、新たな危機に陥ることを回避するため、経済の強靭性を強化してきているところ、この目的のため適時に全ての政策対応を行うことにより現在の経済状況に対応するための努力を強化することにコミット」「各国の状況に配慮しつつ、強固で、持続可能な、かつ、均衡ある成長経路を迅速に達成するため、我々の経済政策による対応を協力して強化すること、及びより強力な、かつ、均衡ある政策の組合せを用いることにコミット」と書かれている。

 確かに世界経済の下方リスクは存在するが、それがリーマンショック級の不況をもたらす可能性があると指摘しているわけではない。重要なことは、「新たな危機」に対応するためと言っていることであり、現在そうした危機があるとか、迫っているとかいうことではない。この宣言は、リスクに対してG7各国が適切な対応をしようという、ごく当たり前のことを言っているに過ぎない。

 他方、安倍総理は記者会見(5月27日)で以下のように述べ、現在の経済状況はリーマンショック級なのだ、と言っている。

「原油をはじめ、鉄などの素材、農産品も含めた商品価格が、1年あまりで、5割以上、下落した。これは、リーマンショック時の下落幅に匹敵し、資源国をはじめ、農業や素材産業に依存している、新興国の経済に大きな打撃を与えている」

「昨年、新興国における投資の伸び率は、リーマンショックのときよりも低い水準にまで落ち込んだ。新興国への資金流入がマイナスとなったのも、リーマンショック後、初めての出来事である」

「中国における過剰設備や不良債権の拡大など、新興国では構造的な課題への『対応の遅れ』が指摘されており、状況のさらなる悪化も懸念されている。こうした事情を背景に、世界経済の成長率は、昨年、リーマンショック以来、最低を記録した」

「世界の貿易額は、2014年後半から下落に転じ、20%近く減少。リーマンショック以来の落ち込みである」

 この発言は、5月26日午後の世界経済に関する首脳会議で、安倍首相が唐突に配布した資料に基づくものである。同資料には、リーマンショックという言葉が繰り返し出ているが、G7首脳にはそうした認識はなく、日ごろ政府寄りの発言をする民間エコノミストでさえ、リーマンショック並みの危機が到来していることについては異論を唱えている。経済・財政問題について一義的に責任を持つ財務大臣らの会合(首脳会議の前の5月20日~21日の仙台財務大臣・中央銀行総裁会議)では、リーマンショック級という議論などなかった。

 石油価格は足もとで上昇に転じており、そもそもリーマンショックは米国など先進諸国で起こったものであり、安倍総理が引用している中国や新興国の話ではない。安倍総理が国会の審議においてリーマンショックについて言っているのは、「そうした出来事が起こらない限り引き上げを行う」ということであるが、前述した伊勢志摩サミットでの総理の説明は、新興国の経済事象が日本に及ぶ可能性があると言っているに過ぎず、どう考えてもこれは消費増税延期の直接的な理由にはならない。伊勢志摩サミットを報道した海外メディアは、「安倍総理の説明は消費増税延期のための口実に過ぎない」と伝えている。

最も借金が多い日本が財政出動を訴えた滑稽さ

 改めて今回の伊勢志摩サミットを振り返ってみると、経済政策については、主要7ヵ国(G7)の中で一番借金が多い日本が積極的な財政出動を訴えたことは滑稽だった。サミットでは、財政出動に対する各国の温度差が改めて浮き彫りになったが、なかんずく英独は日本と距離を置いた。

 報道によれば、独のメルケル首相は、これまでの安倍首相との首脳会談で、巨額の借金を抱える日本がさらに財政出動をなぜ考えるのか、疑問に思ったという。また、同じ独のジョイブレ財務相は、26日、ベルリンで「財政支出の拡大は持続的な経済成長につながらない。公共投資は鍋の中で燃えさかる一瞬の炎のきらめきで、最後は負債が増えるだけだ」(読売新聞2016年5月27日)と述べたという。

 サミットの宣言文は議長国がつくるのであり、事実と反する内容ならばともかく、日本が財政出動したいならばお好きにどうぞ、という程度の話だったのだ。英独は、リーマンショック後に大幅な歳出削減や増税など財政再建の努力をしており、需要を生み出すための無駄遣いをするわけがない。

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